法人や個人事業主で運転資金などを借入するにあたり、自宅の抵当権を担保にすることはめずらしいことではありません。抵当権というのは、金融機関が住宅ローンなどを貸すにあたり、回収ができなかったときの担保として不動産を確保しておける権利のことです。今回のケースでいうと、運転資金の返済が滞ったときに、担保となっている自宅を売却し返済にあてることができる権利になります。
当然の事ですが、借入金を全て返済した場合には抵当権の登記を抹消する事ができます。しかし金融機関などがやってくれるわけではなく、やり方を教えてくれるわけでもありません。自身で抹消登記を行うか司法書士に依頼してくださいというスタンスなのです。
抵当権の抹消登記手続きを行わなかったからといって罰則があるわけではありません。そのため「そのうちやろうかな」といった心理状態になりやすく、気が付けば10年、20年と時間が経過してしまい、いざ抵当権の抹消登記をやろうとしたときに必要な書類がないというケースは少なくありません。その場合は新たに抵当権の抹消登記に必要な書類を交付してもらうのですが、ここでやっかいなのは対象の金融機関が倒産などの理由で消滅してしまっているケースです。
倒産というと、従業員を解雇し販売活動などを停止し机・ロッカーなどの備品が撤去されて店舗内が空になり終了というイメージがあります。しかし会社法という法律の決まりでは、会社の営業をやめる決定がなされてから完全に会社が無くなるまでには3段階のステップがあります。
- 解散の決議を行い清算人を選任する
- 清算人が借金の返済や残った財産の分配を行い、会社財産を±0の状態にする
- 会社を完全に消滅させる清算結了の登記を行う
①、②の段階では、抵当権抹消登記の手続きは問題なく進められます。②の段階では事実上会社は営業を行っておらず倒産しているような状態ですが、まだ存続しているので清算人とのやり取りがスムーズにできるためです。
問題なのは③の清算結了の登記がされて会社が完全に消滅してしまった場合です。この場合でも原則として元清算人の関与が必要になりますが、会社の清算事務を行っていた清算人は任務を終えているため、登記上の住所からの移転等により居場所の特定が難しくなることが考えられます。つまり、抵当権の抹消手続きがスムーズにできない可能性が高まります。
しかし、抵当権の抹消の登記原因日が清算結了した日より前であれば、消滅した会社を復活させることなく元清算人とともに抵当権の抹消登記をすることはできます。
抵当権抹消登記は、時間が経てば経つほど面倒になる可能性が高くなりますので、書類が送られてきたらすぐに行うことをおすすめいたします。