「不動産の名義変更に期限はあるんですか?」といったお問い合わせを受ける事があります。結論から申し上げますと期限はありません。実のところ、名義変更の登記をしないで長期間放置されている方は全国に大勢いらっしゃいます。しかし登記をしなければならない期間がないからといって、登記をしないままで放置しても良いという事ではありません。名義変更が困難となる最大の原因は、名義変更をしなまま長期間放置していた事が大半だからです。名義変更をしないまま放置していると以下のような問題が生じます。
① 関係者が多数
典型的な例が相続による名義変更を長期間放置しているケースです。「空家問題」・「所有者不明土地」といった社会問題になっております。相続人の兄弟姉妹が死亡した場合、子から孫と枝分かれし当事者が無限に増えていきます。基本的に不動産の名義変更では、当事者の一人でも名義変更を拒絶していると登記ができません。そのため、全員の署名捺印が得られず挫折してしまうことも少なからずあります。また相続人の数が余りに多く相続人の特定を断念してしまうことも多く見受けられます。30年放置されていた不動産なら、当事者が20人以上いるのは普通の事です。これらのケースでは司法書士、弁護士などの専門家に依頼しなければ解決は難しいでしょう。法務局の民間相談窓口で対応できるレベルではないからです。
② 書類が保存期間を経過していて取得できない
不動産の名義変更には、亡くなったかたの住民票・戸籍の附票などが必要となります。しかし、これらの書類は原則として、変更事由(死亡・他市へ住所移転)が生じてから5年で取得できなくなります。また除籍・改製原戸籍も80年ほどで保存期間が満了します。ここで大切になってくるのが、不動産の名義変更では住民票・戸籍の附票や戸籍等に有効期限がないことです。かなり古いものでも使える事がありますのでご自宅にございましたら捨てずにとっておきましょう。
③ 当事者が高齢となり書類に署名捺印ができない
この問題は売買、贈与、相続といったあらゆる不動産の名義変更で問題となります。認知症の方は民法では意思無能力者、つまり単独で有効な契約ができないとされております。仮に親族が遺産分割協議書や、契約書類に代筆で記入をしても、後日無効を主張されてしまうこともあるのです。そこで司法書士は、当事者に認知症の方がいた場合、家庭裁判所に成年後見の申立てをします。成年後見の申立ては期間が通常2カ月前後かかりますので注意が必要です。
次に不動産の名義変更に関しまして触れておきたいことが2点ございます。
① 不動産の売却
不動産の売却の際には必ず現在の所有者に名義変更をする必要があります。まず例外はないといって良いでしょう。なぜなら売主側で現在の不動産の権利者に名義変更を行わないと権利書が発行されず、買主に対して不動産の名義変更が行えないからです。
② 不動産の管理義務は名義変更の有無とは無関係に発生する
老朽化して大きな台風がきたら倒壊するかのような建物を見かけたことがあるかと思われますが、数十年放置した不動産は概ね上記のような状態となっております。仮に屋根の一部が吹き飛ばされて通行人に怪我をさせてしまった場合は、原則として建物の所有者が責任を負います。この責任は名義変更をしていなくても負う責任なのです。特に定期的に建物の修繕を行わず放置していた場合は、所有者としての管理義務を怠ったとみなされ、損害賠償責任を負う可能性が高いでしょう。
不動産の名義変更を長期間放置することは、あなたにとって百害あって一利なしと言えます。なるべく早く手続きをすることをおすすめします。
本年もご愛顧いただき誠にありがとうございました。平成30年度も、みなさんのお悩みを解決すべく尽力して参りますので、なにとぞ、宜しくお願い申しあげます。