抵当権の設定と聞いてまず思いつくのは、住宅ローンの担保としてマイホームに設定されるものかと思います。この抵当権は、銀行が住宅ローンの回収を確実なものとし、貸金の回収ができない事による損失が発生するのを防ぐ事を目的としております。融資をした顧客の不動産に抵当権を設定するのは、お金を貸す事を主な業務としている銀行にとって、当然のリスクマネジメントといえます。しかしお金を貸す行為そのものは銀行などの金融機関に限定されたものではありません。利息をとるかどうかの違いはあるかもしれませんが、個人間でも金銭の貸し借りは行われます。数千円から数万円程度の貸し借りなら、誰にでも経験があることでしょう。
ここで問題なのは、100万円以上の大きな金額を個人間で貸し借りする場合です。100万円という金額がもしも回収できなかった時、場合によっては家計などに大きな影響を与えかねない事態となるでしょう。しかし100万円単位の貸し借りが個人間で行われるのは、珍しいケースではありません。特に親兄弟、親戚、友人などの近しい間柄では、多額の金銭の貸し借りが見受けられます。
ここで注目したいのが、借りる側の心理です。目の前の苦境を一時的にでも凌ぐことで頭が一杯になり、返済についての具体的な方法を考えていない事が想定されます。一方で貸す側も貸したお金を回収できる手段を十分に検討せず、回収できなかった時の事を十分に考えていない方もいるのです。
この点は非常に注意が必要となります。
前述したように、貸した100万円単位のお金が返ってこないとすれば、最悪なケースとして、消費者金融から借り入れをしなければならない立場に追い込まれてしまう事だって考えられるのです。できることなら多額の貸し借りは行わないことが一番です。しかしながら、近しい人間が哀願する姿を目の当たりにすれば、堅実に経済基盤を築いてきた方でも気持ちが揺らぎ、つい貸してしまうことだってあり得ます。
これらの事を踏まえて、貸したお金の回収方法として極めて有効な手段が不動産に抵当権の設定登記する事です。不動産の抵当権の設定登記は銀行などに限らず、個人間の金銭の貸し借りでも行うことが可能です。
抵当権設定登記のメリットは、貸した相手がお金の返済をしてくれない場合に裁判を行わずに競売にかけ、売却したお金を回収できる事です。また抵当権を設定する不動産の調査をしている段階で、相手の経済状態を把握できます。もし登記簿に固定資産税等の税金の差し押さえが登記されていたら、その不動産の持ち主は経済的に破綻寸前と推測する事もできるのです。感情に押し流されて貸す気になっていても、差押えと記載されている登記簿を見て冷静になる事もできます。
デメリットとしては、銀行などの抵当権が先順位で登記されていた場合、遅れて登記した場合は先順位の銀行に劣後し、銀行より回収の順位が後回しにされてしまいます。その場合1円も回収できない事態も十分にありえます。また抵当権の設定登記は専門的な知識が必要です。登記簿に記載されている権利の判断、抵当権設定契約書の作成、登記申請書類の作成など、必要に迫られてネットで調べた知識で手続きを進めるのは大変に危険なことです。