ご存じの方も多いかもしれませんが令和6年4月から相続による名義変更が義務化され、相続によって不動産を取得した事を知った日から、正当な理由がなく3年以内に登記を申請しないと10万円以下の過料の対象になります。さらには、住所変更登記も義務化されることになり、令和8年4月以降から住所変更後(令和8年4月前に住所変更した人は令和8年4月から)正当な理由がなく2年以内に住所変更登記を申請しないと5万円以下の過料の対象になります。
登記の義務化
いずれの登記の義務化も社会問題となっている所有者不明土地問題に対する対策のために施行されることとなったようです。ここで所有者を変更する相続登記が所有者不明土地問題の対策になるのは理解できるが、“住所変更登記がなぜ所有者不明土地問題の対策になるの?”と疑問に思われる方がいらっしゃるかもしれません。実は不動産登記においては現在の不動産の所有者を登記する名義変更の登記と、現在の所有者の住所と登記簿上の住所を一致させる住所変更登記は同じくらい重要な登記となっているのです。それというのも法務局に登記されている所有者の住所と、所有者の現在の住所が一致しない場合は不動産登記法では別人とみなされるからです。つまり住所変更登記が完了していないと不動産の売却による名義変更登記も行えないのです。そのため我々司法書士は常々住所変更登記には極めて強く気を配ってチェックをしております。
住所変更登記のやっかいなところ
住所変更登記のやっかいなところは、現在の住所と登記簿上の住所のつながりを全て証明しなければならないことです。単に現在の住民票を用意すれば住所変更登記ができるとは限らないのです。例えば登記簿上の住所がA市だとします。登記簿上の住所AからB市、B市からC市と住所の移転をしていた場合はすべての住所の移転の履歴を証明しなければならないのです。しかし住民票に記載されているのは一つ前の住所B市からC市への記録のみの場合が多いです。戸籍の附票などを取得すれば上記の場合A市→B市→C市の全ての住所の移転の記録が出てくる事が多いのですが、これまで戸籍の附票の役所での保存期間は5年しかなく、それ以前の住所の移転の記録が取得できないケースが多くあります。その対策として令和1年から戸籍の附票の保存期間が150年と延長されましたが、すでに廃棄された戸籍の附票が復活するわけではなく、やはり住所変更の履歴の記録が全て取得できないという問題は根強く残っています。
我々司法書士は住所変更の履歴が全て取得できない場合、不在住・不在籍証明書を取得したり、権利書を住所変更登記の際に添付したり、権利書が無い場合には上申書を作成したりして住所変更登記を行っています。こういった書類の収集・作成は専門的な知識が必要となり、時間もかかってしまいます。そういったこともこの度の住所変更登記の義務化に至った要因となっているのでしょう。